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1.この事例の問題は?研究室メンバーで行く旅行は,仲間との懇親を深めるという意味で,研究室での重要な活動の1つです。しかし,学生にとっての日常業務は学習と研究です。そのため,学生たちは旅行の幹事業務を自分たちとは関係ない,余計な仕事ととらえており,やる気が起きません。間接部門のQCサークル活動でも,「QCサークル活動は製造部門が行うもので,自分たちとは関係ない」ととらえられることがあるのではないでしょうか。このような事例の問題は,「活動や業務の範囲を自分で線引きしてしまう心のカベ」があることです。自分の業務に直接関係することだけをやっていればよい,ほかのことは面倒だと考えており,業務に関係のないことには参画しないという問題です。2.そのカベを乗り越えたキッカケでは,マンガの事例で,1の心のカベを乗り越えたターニングポイントはどこにあったのでしょうか。それは,渋々ながらも,幹事の業務を始めたことです。教授からの指示だったこともありますが,研究室メンバーの誰かが担当しなければならないこともあり,A・B・Cさんは企画を考え始めました。まずは,メンバーに取り組んでもらうことが,心のカベを打ち破るキッカケとなります。3.キッカケと効果を生んだ推進時の工夫A・B・Cさんは渋々ながらも幹事の仕事を行い,最終的にはやりがいを感じています。このように学生3名が変化した成功の秘訣は,何でしょうか?それは教授が的確なリーダーシップを発揮し,支援し続けたことです。みなさんは,マンガのほとんどすべてに教授が登場していることにお気づきでしょうか?この教授は,つねに幹事たちの取組みに寄り添っているのです。まず,研究室旅行へ特集事務/営業/間接部門の人たちをその気にさせる工夫行く目的や意義を伝え,幹事業務がいかに大切であるかを説明しています。活動の目的を理解し,腹落ちしてもらうことが,メンバーに活動を実施してもらううえで重要です。また,教授は企画の打合せにも顔を出し,関心を示し続けています。これによって,幹事は安心感を得られます。最後に,幹事の取組みを褒めています。教授から褒められることは学生にとってうれしいことであり,より大きな達成感を得たことでしょう。4.QCサークル活動における「支援」一度,活動のやりがいを感じられれば,ほかの問題もQCサークル活動で取り組んでみようと思ってくれるでしょう。実際に,そのような実例を耳にします。しかし,QCサークル活動を通してサークルメンバーが達成感を得るためには,管理者・推進者の「支援」が不可欠です。メンバーに任せっきりの活動では,うまくいきません。支援とは,「支え援たすける」ことです。このうち,QCサークル活動における「支える」とは,精神的側面を支えることではないでしょうか。事例に登場する教授のように,活動の目的,意義を伝え続けることは,「面倒だ」と思う心のカベを払拭する方法の1つです。また,改善活動は地道な分析,議論が必要ですし,悩むことも多くあるでしょう。頑張って取り組んでも,目標を達成できないこともあります。そのような時に,管理者・推進者はメンバーに寄り添い,力になっていただきたいと思います。もう一方の「援ける」は,手を差しのべて助けるという意味です。こちらはQCサークル活動のための時間や経費面での実質的な側面をサポートすることでしょう。メンバーが活動を進めやすい環境を整えることは,管理者・推進者の大事な役割です。管理者・推進者の適切な「支援」によって,活動範囲を自分たちで線引きしてしまうメンバーの心を解きほぐしましょう。(梶原千里)2023年11月号11