>> P.13
第1回の「1.IEにおけるアプローチ」において,分析的アプローチと設計的アプローチについて紹介しました。分析的アプローチは,現状の方法をもとに,システムを分析し,問題点をあげ,その問題点をなくしていく方法で,第5回までは主としてこのアプローチが中心でした。これに対して現状からではなく,あるべき姿あるいはありたい姿を設定して,それに近いシステムを具現化する設計的アプローチがあります。今回はその考え方が適用できる一つの手法である「もの・こと分析」を紹介します。もの・こと分析は,元慶應義塾大学中村善太郎教授が約50年前に考えられた手法で,仕事全体を「もの(資源)」と「こと(変化)」で構造化してとらえ,システムを設計しようとするものです。分析的アプローチで用いる分析手法では,工程分析や稼働分析に見られるように,製品,作業者,機械・設備などの資源のうち,分析対象をその一部に限定していました。これに対し,もの・こと分析では,仕事に投入されているすべてのもの(作業者や場合によりそこで用いられている情報も含め)を分析対象にしている点が特徴です。以下では,仕事を構造化してとらえる部分を中心に議論を進めるので,「仕事の構造分析」と呼ぶことにします。1.分析の特徴「仕事の構造分析」の特徴を以下に示します。•仕事を,資源である「もの」とその変化である「こと」として整理することができる仕事に投入される資源には,原材料,機械・設備,治工具,作業台,什器・備品,作業者,エネルギー,情報など様々なものがあります。問題の状況により,これらのものすべてを分析の対象とすることができます。•改善の対象として扱う仕事の範囲を明確化,イメージ化することができる改善を行う対象の範囲として,ワークステーション,ライン,職場,工場,企業全体など,場合に応じて自由に設定できます。どのような範囲を分析対象としても,同じ構造でとらえることができます。•改善のためのアイデアを系統立てて出すことができる仕事を構造化して分析するので,構造に沿って順序立ててアイデアを出していくことができます。思いつきでアイデアをバラバラに出していくより,アイデアを出すプロセスの効率化がはかれます。•現状と改善後の比較ができる現状の仕事について構造化して分析したものと,「あるべき姿」について構造化された結果を比較することで改善後の効果を見える化できます。•設計的アプローチが適用できる現状の仕事を対象にして仕事の構造を把握し,「あるべき姿」を考えることも可能ですが,初めから「あるべき姿」を想定して仕事の構造を設計することもできます。2.分析の考え方と手順仕事の構造の基本的な手順とその考え方を説明します(図・2参照)。手順①この仕事の製品は何かを決める(終わりの状態を決める)手順②製品を生み出すために用いられる素材の状態を決める(始めの状態を決める)仕事の改善や設計を行う対象とする仕事を「始めの状態」と「終わりの状態」として2023年6月号53