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特集プロセスに目を向けて仕事の質を向上させよう1.こんな事例です昨年からのコロナ禍により,人の価値観を変える大きな環境変化が世界中に起こりました。その中で,多くの企業や組織でテレワーク化が進み,場所を選ばない働き方がメディアでも取り上げられています。本件は,このような環境をチャンスととらえ,働き方そのものを改革しようとした企業の例です。テレワークは,「通勤の負荷がなく,時間が有効に使える」,「仕事に集中できる」,「会議室が不要」などのよい点が多い反面,やはり人と人の触れ合う機会が減ってしまうため,コミュニケーション不足の課題が出てきます。この企業の例でもその問題に突き当たり,不安解消のため,人と人が直接会うことを求めて少しずつ出社機会を増やした結果,元の状態に戻ってしまい,本来目的としていた働き方はまったく変わらなかったわけです。これではいけないとみんなが思っていたところ,A君の「テレワークならではのやり方があるはず」という一言により,みんなが前を向いた議論が始まります。業務情報の共有や気軽な会話など,テレワークでは困難に見えても,工夫次第では様々なやり方ができることに気づきます。その結果,どのような環境変化にも対応した働き方ができる強い組織になりました。2.目的に戻って考えることが大切ここでのポイントは,業務プロセスには,必ず目的があり,つねにそこに立ち戻ることの重要性を説いている点です。本事例では,もともとコロナ禍によってテレワークを余儀なくされたのをよい機会として,働き方を変えたいという目的があったにもかかわらず,新たに発生した困りごとであるコミュニケーションの問題のみに着目するあまり,それを見失ってしまいました。実現したかったことは働き方の改革であって,目先の問題解決ではなかったことに気づき,改めて議論し直すことで,正しい方向に導くことができました。当然,テレワークがすべてにおいてよいというのではなく,出社して実際に顔を合わせることによるコミュニケーションが有効な場面もあります。したがって,有効な使い分けをすることが望ましく,この職場では,働き方について多くの手段を持つ能力の高い組織になったことになります。いろいろな問題に出合ったとしても,本来やりたかったことは何なのかを,つねに思い続けることが大切です。3.QCサークル活動に当てはめるとみなさんのQCサークル活動,あるいは日常の業務においては,まず活動の目的を特定・共有したうえでテーマを選定し,現状を把握し目標を定めると思います。そして,その取組みの中で多くの障害に突き当たり,それを克服しながら目標達成に向けて進んでいくものと思われます。その際に注意したいことは,その障害が大きい場合,元々の目的を忘れて,障害を取り除くことだけに注力してしまい,いつの間にかテーマがすり替わってしまうということです。つねに,目的」を手元に置いてQCサークル活動あるいは業務を進めることをお勧めします。また,今回の事例では,元々の目的を思い返すA君の一言が起点となって,業務の方向修正がされました。このように「何かおかしいのでは」と気づく力が重要であり,さらに,気づいたことは声に出す,そして組織もその声をしっかり吸い上げ,みんなで考えていく,こういう組織文化をつくることもQCサークル活動では大切なことです。QCサークル活動を含め,職場の改善はこのような文化や組織の体制がないと,真の改善はなかなかできないことに改めて気づかされる事例です。(石田太)2021年6月号11